「エドぉー、朝よー! 起っきなさーい!」
「うう……ん……」
廊下から張り上げられたマーガレットの怒声が、びりびりと空気を打って震動する。
粛々とした朝の空気にはおよそ似つかわしくない騒々しい声音に、エドワードはタオルケットの中で眉をひそめた。
なかなか起床の準備をしないエドワードに痺れを切らしたらしく、マーガレットは部屋の扉を大きく開け放つと、ずんずん中に踏み込んできた。
「もうっ……起きなさい、この……、自・由・人! がっ!」
マーガレットはいきり立ち、べりっと勢いよく毛布を剥ぐ。
が、あろうことかエドワードはすっぽりとその下の羽毛布団に包まり、分厚い生地でマーガレットの声を遮る。
掛布は雪山のようにこんもり膨らみ、中からぼそぼそと覇気のない声が聞こえてくる。
「あと五分……、いや、十分だけ見逃してくれ……」
「ダメでーす! 見逃しませーん! てやっ!」
マーガレットは掛け声とともに掛布を勢いよく引っぺがした。弾みで枕元の専門書がばさばさと音を立てて落ち、衝撃を受けたゴミ箱が辺り一面に大量の紙くずを撒き散らす。
寝台の上で芋虫のように丸くなっていたエドワードは、マーガレットを見上げて心底嫌そうに顔をしかめた。
「何すんだ、返せ……、……っくしゅっ!」
「あらやだ、大変! 肌寒いなら着替えないとね! ってわけで、行っきまーす!」
「うわっ――」
素早く伸びてきた手に、エドワードが目を剥く。
それもそのはず、マーガレットは寝ころんだままのエドワードのパジャマに手をかけ、勢いよくむしり取ろうとしていた。
「……っ! やめろ、勝手に脱がせるな! 服くらい一人で着られる……っ!」
「まあまあいいじゃない。弟にもね、昔よくやってあげてたのよ。あたしはそれと同じようなものだと思ってるから!」
「いや違うだろ!? お前の弟と違って俺は立派な成人男子だぞ!? どう考えても年端の行かない男児とは訳が違うだろ!!」
「おんなじことよー。ほら、バンザーイ!」
「朝っぱらから勘弁してくれよ…………」
瞬く間に寝間着を剥かれ、まるで着せ替え人形のごとく肌着やシャツを着せかけられ。
エドワードはマーガレットの独裁者ぶりにがっくりと肩を落としたのだった。
***
……季節は薔薇咲き誇る初夏。
春先から夏にかけての数ヶ月は、エピドートでは「貴族の季節」とも呼ばれる華やかな時季である。社交の要たる“社交期”はすぐそこ。庭園の創造主たる国のガーデナーたちが「ここが腕の見せ所」とはりきり出す季節でもある。
王都ピスタサイトは薔薇にブルーベル、すずらんやライラックといった初夏の植物で彩られ始めており、そのみずみずとした様子はマーガレットたちに新たな季節の到来を感じさせた。
「ったく。とんでもない痴女だな、お前。よりによって寝起きの男の服脱がせるか? おかげですっかり目が覚めちまった……」
「ふふん、あたしのおかげねっ!」
「どこがだよ! こんなもん傍迷惑でしかないっての!」
「もーっ! 起こしてもらっといてなんて口の利き方……っ!」
「まあまあ、二人とも落ち着いてくださいよー。せっかくのお芋が冷めちゃいますよぅ。おっと、カトラリーが……」
テーブルを挟んでばちばちと火花を散らすエドワードとマーガレット、転げたスプーンをのんびり拾い上げるネイサン。普段と何ら変わらない、至ってほのぼのとした朝の光景である。
チェック柄のテーブルクロスの上に可愛らしく並べられた朝食を、マーガレットはうきうきと覗き込んだ。
数種類の具材を炒めたフルブレックファスト、茹でてつぶしたじゃがいもに、きゅうりとトマトのサラダ。薄切りパンに蜂蜜を落としたヨーグルト。そして……
「きゃあっ! ちっちゃなパフェがあるっ! 可愛い!」
「今ちょうど『朝パフェ』というのが流行っているみたいなんです。裏庭のベリーを使って簡単に作ってみたんですが、お口に合うようならまた次も用意しておきますね」
「なんかごめんねぇ、ネイサン。朝ごはんの支度、いつもあなたにばっかり押し付けちゃってて」
そこでマーガレットはちらりとエドワードを見やる。
「ほら、うちの店主って寝穢いことで有名でしょ? 誰かが起こしに行かないと仕込みもろくにできないもんだからほんと困っちゃうわー」
「は……、はは……」
「聞こえてるぞ、お前」
広げた新聞紙の裏側からエドワードはマーガレットをひと睨みする。
そして香ばしく焼き上がったトーストにさくりと歯を立てた。
三人は思い思いのスタイルで食事を摂り、モーニングティーを愉しんだ。
最近では少しずつお茶を淹れるのもうまくなってきて、今では朝のサーブ係はマーガレットが担当している。
ガラスのポットを置くと、マーガレットはそれと揃いのカップを二人の前に差し出した。中にはピスタチオグリーンのお茶がなみなみと注がれている。
「はい。今日は冷たいグリーンティーにしてみたわ。この間買ってきた少しだけミントの葉が混ざったお茶よ。この前エドに教わった通りに淹れてみたんだけど、どお?」
エドワードはカップに口をつけ、満足げに口角を上げた。
「うん、確かに今の時季は冷たいお茶の方がうまいよな。目も覚めてちょうどいい」
「マッジ、また上達したんじゃありませんか? 香りがよく出ていてとってもおいしいです」
「えへへっ、ありがとー、二人とも! たっくさん召しあがれ!」
朝食を食べ終えた三人は、その後てきぱきと開店準備を開始した。
まず、店先の看板にその日のいちおしメニューを書く。今日の日替わりランチはスコッチエッグとシーザーサラダ、アレンジティーは薄くスライスしたいちごを浮かべたストロベリーティー。そしておすすめデザートは薔薇のジャムを添えたスコーンと、旬のフルーツである木苺を使ったサマープディングだ。
店の前を小ぎれいに整えた後、今度は店内の清掃と消毒に取りかかる。
広い店内をすっかり綺麗に整えてしまうと、マーガレットは各テーブルに庭で切ってきた生花とレースのドイリーを飾った。
今日テーブルを彩るのは純白の小ぶりな野ばらだ。見かけのわりに繁殖力が強く、子羊亭の裏庭は今や野ばらに侵食されつつある。せっかくなので大量に切ってきて飾ってみたのだ。
最後に、店先にあるガラスのショーケースに焼き菓子やケーキを並べる。
ここの飾りつけは最も重要だ。店に入るかどうかをショーケースの中身で判断する客も多いので、特に丁寧に、おいしそうに並べる。テイクアウト用の商品でもあるから、思わず持って帰りたくなるように、魅力的に。
「んしょ……。エドのトライフルって、隠し味のワインが絶妙でとってもいい味なのよねぇ……。ガトーショコラとにんじんのケーキを五つずつ、こっちにはジャムタルトとチョコチップクッキーを並べて、と……」
色とりどりの菓子をクーラーの効いたショーケースの中に綺麗に並べ、仕上げに手描きのポップを愛らしく飾り付けると、マーガレットは会心の笑みを浮かべた。
ウィンドウディスプレイも立派なウェイトレスの仕事の一つ、決して気は抜けない。
営業開始まであと数分というところで、マーガレットたち三人はホールに集合して最後の打ち合わせをした。
「じゃあ、今日も一日頑張ろう。何かトラブルがあった場合はすぐに誰かに相談すること。いいな?」
「はい」
「はーい!」
元気よく手を上げると、マーガレットは最初の客を出迎えるべくエプロンの裾を翻した。
***
その日は朝からよく客が入った。
最初の客は朝の散歩の途中にふらりと立ち寄った老夫婦、次に買い物帰りの中年の婦人と続く。みなモーニングが目当てである。
窓際の女性客が食事を始めた途端、バターに蜂蜜、そしてオレンジの混ざり合ったなんとも言えないいい匂いが辺りに立ち込める。マーガレットは思わずひくひく鼻を蠢かせた。モーニングにつけられたトーストとバター、そして自家製ママレードの匂いだ。
表面をママレードで固めたトーストにさくっ、と歯を立て、女性客はそれはそれは満足げな顔をした。
(エドのママレード、果肉が大粒で甘酸っぱくてとってもおいしいもんねぇ。わかるわかる。ほんのちょっと蜂蜜が入ってるから固さの具合がまた絶妙で……って、ああ……、さっき食べたばっかりなのにもうお腹空いてきちゃった)
赤いベストの上からそっとお腹を押さえ、マーガレットは苦笑した。
シェフが料理上手というのもある意味困り物である。
その時、ホールのBGMが切り替わり、スピーカーから女性の妖艶な歌声が流れ出した。マーガレットはうっとりと新緑の瞳を細める。
「あー、ジャニー・マルタンの新曲! さすがはナイトクラブ出身なだけあっていい声してるわー!」
女性にしてはやや低めの艶めいた美声をお供に、マーガレットはダンスをするようにくるくる身を翻した。
「ふんふんふーん……♪」
トレイ片手にターンを決め、ブーツの踵で床をコツ、コツ、とタップする。
女性シンガーによる甘めのジャズは店の雰囲気にとてもよく馴染んでおり、客たちは皆歌声に酔いしれながらのんびりコーヒーや紅茶を愉しんでいる。そこに加わるコーヒー豆やスパゲティソースの香りがまた絶妙で、仕事中ということも忘れて思わず音楽に聴き入ってしまう。
「はぁぁ〜……。子羊亭っていいお店よねぇ……。時間を忘れてついいつまでもくつろいでいたくなるわ……」
と、その時、カウンターからエドワードの声が飛んだ。
「おいそこサボるな」
「もう、わかってるわよぅ!」
ぷりぷりと言い、マーガレットはくるりと身を翻してお冷を注ぎに回る。
「お客様っ、お水のお代わりはいかがですか?」
「ありがとう、いただくよ!」
コンサヴァトリーにほど近い席では年嵩の女性が読書をしながらチョコレートパフェを頬張っているし、カウンター席では老紳士が背中を丸めてミートスパゲティを啜っている。
その様子を見守りながら、マーガレットはくすりと笑みをこぼした。
「ふふっ、おひとり様が気軽に入れるお店っていうのもなかなかステキかも!」
「さて、今日も一日頑張ろう」と、マーガレットは気合を入れ直した。
***
「ふー……、今日もありがたいことに千客万来! 接客は大変だけど、客商売だし、忙しいのはいいことよね」
うんうんとうなずき、マーガレットは凝った肩を揉みほぐした。
昼過ぎのホールはほどよく空いた状態だ。まだ食事やお茶を愉しんでいる客もいるが、やはり正午に比べると人が少ない。昼食目当てで入ってきた客が退けたばかりなので、応対には少しだけ余裕がある。
「まあ、代わりにお昼のデザートメニュー目当てで入ってくるお客さんがいるわけだけどねー」
そう、一番混雑する時間帯は過ぎたものの、これからは午後の紅茶――すなわちアフタヌーンティーを楽しみにやってくる客が訪れるため気は抜けないのだ。
マーガレットはウェイトレスとしての業務を淡々とこなした。
オーダーを取り、料理を運び、お冷を注ぎ、空いた皿やカップがあればすぐさま回収に回る。
合間にちょこちょこ各テーブルの様子を確認しながら、マーガレットはこまねずみのようにせわしなくフロアを行ったり来たりした。
「すまん、嬢ちゃん。トイレはどこかね?」
「あっ、お手洗いでしたらこちらになります。ただいまご案内いたしますね!」
「ウェイトレスさぁん、お会計ー」
「はぁーい、ただいまー!」
テーブルを片付け、空いた皿を運び、レジに走る。
そして、やっと手が空いたと思えば誰かしらに声をかけられる。
始終こんな調子のため、一人では手一杯の状態になってしまうことも珍しくない。
せめてもう一人か二人ホール係がいてくれたら……とマーガレットは苦笑いした。
「ふぅ……。なんとかミッションクリアね……」
額の汗を拭き拭きレジを出ようとすると、入口から新しい客が二人入ってくるのがわかった。
一人はたくましい長躯ときりりと引き締まった表情が印象的な青年、もう一人は甘く柔和な顔立ちをした中性的な雰囲気の青年だ。
二人は店内を眺めまわしながら、小声で何やら楽しげに言葉を交わしている。
マーガレットは急いで通路を抜け、客の出迎えに向かった。
「いらっしゃいませ、何名様でしょう?」
声をかけると、二人連れのうち背の高い方がきびきびとした声音で言った。
「二名だが空いているだろうか?」
「はい。ただいまお席にご案内いたしますね!」
エドワードに教わった‟接客用語”とやらがまだ難しく、気を抜くと舌がもつれそうになる。
マーガレットは引き攣れた口をもごもごさせながら彼らをホールに案内した。
「うわぁ、眺めのいい席だなぁ! ふふ、お庭の薔薇がよく見える素敵な場所だね!」
ホール中央、中庭に面した席に彼らを案内すると、茶髪の青年ははしゃいだ様子で身を乗り出した。
彼の視線の先には子羊亭の中庭、そして薔薇やクレマチスがいきいきと枝葉を茂らせる花壇があり、彼はそれらを賞賛の眼差しで見つめている。
マーガレットはここぞとばかりにセールストークを繰り出した。
「ふふ、庭はうちの自慢なんです! ここからならフロントガーデンのお花がばっちり楽しめるでしょ? 今は満席でご案内できないけど、天気のいい日は向こうのコンサヴァトリーで食べるのもおすすめなんですよ! 日当たりが良くて最っ高なんです!」
雨風もしのげるガラス張りのコンサヴァトリーは子羊亭の自慢だ。日和の良い日などは女性客たちによって争奪戦になるくらいである。エドワードがまめに草刈りや剪定をしていることもあって、見た目の美しさにも定評がある。
「ふむ、確かにいい庭だな。フロントガーデンから繋がっているのか。ふむ、この広さならバックヤードもありそうだが……」
黒髪の青年のつぶやきに、マーガレットはにっこり笑ってうなずいた。
「はい! バックヤードでは主にお野菜とハーブを育ててます! ルバーブやバジル、きゅうりやトマトなんかを!」
マーガレットの回答に、青年は感心した風に微笑した。
「それはいいことだ。自給自足の生活とは素晴らしい心がけだな」
青年はきりりと精悍な眉を下げ気味にし、切れ長の瞳を細めて柔らかく笑む。
そうすると冬の厳しさを思わせる冷たい美貌が幾分和らぎ、穏やかで親しみやすい印象になる。
その表情の移ろいに見とれていたマーガレットははっとして居住まいを正した。
「あっ……と、すみません、ただいまお冷とメニューをお持ちしますっ」
「ありがとう。ゆっくりでかまわないからね」
いやみのないしぐさでマーガレットの手を握りながら、茶髪の青年がにこやかに言う。
肩口で一つにくくられたヘーゼルブラウンの髪と、役者めいて甘いマスク。
まるで童話に登場するプリンスのように見目麗しい青年だ。
(うわ、きれーい。この人、男の人なのにとんでもなく美人さんだわ。髪は長いのに骨格はちゃんと男の人っぽくて、そのバランスがまた絶妙っていうか)
マーガレットは若干ぽうっとなりつつも、大慌てで踵を返す。
……と、その時。
「――ランディ? それに、アランも!?」
カウンターの奥から顔をのぞかせたエドワードの姿に、マーガレットはきょとんとする。
エドワードはそのままキッチンを抜け、ホールまでやってくる。そして客席の二人に向けて手を差し出した。
「二人とも久しぶりだな! やっと来てくれたのか、待ちくたびれたぜ」
「久しぶりだな、エドワード」
「やあ! 遊びに来ちゃったよ、エドー!」
二人は順にエドワードと抱擁を交わし、いかにも親しげにその肩を叩く。
「あはは、久しぶりだねー! エプロン姿、すっごくよく似合ってるよ。いかにも料理人って感じでかっこいいね!」
「約半年ぶりか? 二人とも元気そうで安心した。なんたって手紙を出してもちっとも会いに来てくれないもんだから」
そんないやみを言うエドワードに、黒髪の青年は小さく苦笑いする。
「これでも一応遠慮したんだ。お前はこの店の店主なんだし、仕事中に押しかけられるのも困りものだろう?」
「そうそう。大事な店主さんだからね、邪魔はダメだよ、やっぱり」
「むしろ来てほしかったぜ、俺は」
顔を見合わせ、三人は朗らかに笑い合う。
マーガレットが「え、えっと……?」と困惑の表情を浮かべていると、どうということはないとでもいうようにエドワードが言った。
「……あ、悪い。こいつらは俺の友達なんだ。髪の長い方がアラン、背の高い方がランドルフだ」
「あ、よ、よろしく!」
なるほど、友達だったのか。それならこの気安いやり取りも納得だ。
二人は改めてマーガレットに向き直る。
「挨拶がまだだったよね。僕はアラン・コールフィールドです。エドとはずっと同級、同室だったんだ。どうぞよろしくね」
「よ、よろしく」
ヘーゼルブラウンの髪を肩口で結った青年の名はアランというらしい。
彼の纏うきらきらしたオーラに気圧されつつも、マーガレットは差し出された手をぎゅっと握り返した。
「初めまして、お嬢さん。俺はランドルフ・リットン、エピドート陸軍所属の軍人だ。以後お見知りおきを」
「うえっ、軍人さんなの!?」
ランドルフと握手を交わしながら、マーガレットは思いもよらない彼の言葉に目を見開いた。
なるほど、道理でたくましい体つきをしていると思った。彼の身体が筋骨隆々なのはスーツの上からでもはっきりと見て取れる。
びっくりしているのが伝わったのか、黒髪の青年はマーガレットの肩に手を置くと鷹揚に笑い飛ばした。
「はは。そんなに怯えなくてもいい。軍人の役割とはそもそも民の平和を守ることなのだからね」
「アランはコールフィールド商会の一人息子でな。今は確か、ビジネスの勉強をしにスクールに通ってるんだっけか?」
「うん。昔父さんも通ったところ。勉強しながら実務も覚えるのって結構大変で……」
アランの言葉を遮り、マーガレットは身を乗り出す。
「え!? コールフィールド商会ってもしかして超大手じゃない!? 大通りにものすんごい立派なビルディングが建ってるわよね!? もしかしてそこの人!?」
「あれ、僕の会社を知ってるの? こんな小さい子にまで認知されてるなんて嬉しいなぁ。酒造に海運に造船……、ありがたいことに今は色んな分野で活躍させてもらってるんだよね。僕も父さんたちに負けないように頑張らなきゃなあって思ってるんだよ」
なんということだ、ものすごい「お友達」が来てしまった。
(けど、エドも一応政治家の子供だしね……、もしかしたらエドの出身校って、そういう超一流の子供たちが集まる学校なのかもしれないわ)
たじろぎながらも、マーガレットはエドワードに声をかける。
「あの……エド?」
「?」
「よかったら、お友達とゆっくりおしゃべりしててもいいわよ。キッチンの方はあたし手伝っとくし」
すると、エドワードは彼にしては珍しく嬉しそうにうなずいた。
「悪い、じゃあ少しだけ抜けさせてもらう」
いそいそとこちらに背を向けるエドワードに、マーガレットは小さな笑みをこぼす。
こうして店主が旧友や馴染みの客と話し込むのは、王都の喫茶店ではよくある光景だ。そこからまた新しい人脈が広がっていったりもするので、何もデメリットばかりというわけではない。
第一、半年ぶりに旧友と再会したのだからじっくり語り合いたいと思うのはごく当然のことだろう。
(エドにも年相応なところがあるのね。なんだか安心しちゃった)
マーガレットはくすりと笑うと急いでキッチンへ向かった。