叩扉の音に、部屋で書きものをしていたアスターは顔を上げた。
何度かドアノッカーを叩かれる。どうやら階下――尖塔の出入口の方から聞こえてくるようだ。
世話係の侍従が出払っているらしく、その音はしばらく続いた。
この尖塔は天井が高いので、些細な音もよく響く。そのノックの音はじゅうぶんにアスターの気を引いた。
「……誰なんだ、こんな時間に」
アスターは仕方なしに鵞ペンを置いた。そして石造りの階段を下り、尖塔の入口へと向かった。
アスターの住まう尖塔は、どこか教会を思わせる構造をしている。
厨房、小さな洗濯室、書斎、浴室などから成っているが、成人した王子の住まいとしては部屋数も極めて少ないといえる。部屋の数や装飾にこだわることで権力を示そうとする王族男性もいるくらいだというのに、アスターの塔にはそんな美々しい要素はまるでない。
しかしながら、忌み子として極力質素に生きていきたいと願うアスターにとってはここはもはや快適な場所となっていた。
どこか聖職者めいた暮らしぶりではあるが、忌み子である以上、贅沢は望めない。
これまで命を奪われなかっただけましなのだ。異教徒にそそのかされるばかりか、かつてのスフェーンには生まれた忌み子を縊り殺した王というのもいたのだから。
……これでいい。これ以上は、望んではいけない。
ずっとそう言い聞かせ続けていたら、感覚が麻痺したのか、とうとうないものねだりをしなくなった。
(これでいいんだ。僕はずっと、この尖塔の中で生きていく……。華美な暮らしなど、欲しがらない)
そうは思いながらも、これが恋人であるクララによる訪問かもしれないという期待はやはりあった。
アスターはつかつかと扉へ向かい、把手に手をかける。
「……クララか?」
そう言って扉を勢いよく押し開いた。
と。
「きゃっ……!?」
ごん、という音ともに、何かが観音開きの扉にぶつかった。
「いった……! なんなのよ、もう!」
「ああ……、びっくりした……!」
「……!?」
アスターは思わずのけぞってしまった。
そこにいたのはなんと、件の第三王女と第四王女だったのだ。
(なっ……、なぜ彼女たちがこんなところにいるんだ!?)
白銀の髪のおっとりした姫、そして燃えるような芍薬色の髪の姫の二人が、揃ってアスターを見上げている。
二人は頭をさすりながら、アスターをちらちらとうかがっている。まるでどう切り出せばいいかわからないといった風に。
アスターはそこで眉宇をひそめた。
彼とて、もともと女が特別嫌いというわけではない。
ただ、慣れていないのでどう接していいかわからないのだ。
特に、こうした年頃の少女というのはよほどの相手でなければ話題に困ることが多く、どんな会話をすれば満足してもらえるのかが全くわからない。
こちらは男で、しかも彼女たちより少しばかり年上だ。いくら同じ父親を持つ姫だといっても、どのように相手をしてやればいいかなど皆目見当もつかないのである。
「……何をしに来たんだ」
やっとのことで声を絞り出す。
すると、第三王女がぱっと顔を上げた。
「あっ……、失礼いたしました。おはようございます、アスター殿下」
邪気のないバイオレッタの笑みに、アスターはうっとたじろぐ。
(な……、なんなんだ、この娘は……)
やりづらいことこの上ない。
花開くような笑顔に、アスターの心の鎧を取り払うような無邪気なしぐさ。ぺこりと礼儀正しくお辞儀をする姿には毒気がない。
オルタンシアやミュゲといった個性の強い姫たちとは異なり、びっくりするほど低姿勢だ。
(いや……、それも当然か。彼女は十四年もの間城下で暮らしてきた娘だ。いきなり王子に対して馴れ馴れしい口を利くなどといったことはどうしてもできないんだろう)
その奥ゆかしい性格は別段不快ではなかったが、かといって馴れ合う気もなかった。
弱みを見せることで気を引き、べたべたと相手にもたれかかる。そんなだらしのない関係はもとより大嫌いなのだ。
この二人に対しても同じだ。忌み子だからといって、同情してもらおう、憐れんでもらおうなどとは露ほども思っていなかった。
「……バイオレッタ姫。そしてそっちはピヴォワンヌ姫だな」
アスターは険しい顔で二人に詰め寄った。
「ここに来てはいけない。ここは隠者の住まう塔だ。貴女たちのような姫が軽々しく訪れていい場所ではない」
そう教え諭しただけなのに、ピヴォワンヌがやれやれといった風に肩をすくめる。
「はあ……。ほらね、バイオレッタ。あたしの言ったとおりでしょ。引きこもってるだけあってやっぱり暗いわ、この王子」
「ピ、ピヴォワンヌ! しっ……!」
「だって、女相手に浮かれるそぶりも見せないような男よ。女官相手ににこりともしてなかったし」
アスターは盛大なため息をついた。
女だからといって誰彼構わず特別扱いをすればいいというものでもないだろう。それは優しさとは言わない。むしろ気を持たせるだけ残酷というものだ。
どう説明してやれば納得してもらえるのかわからなかったが、ぼそぼそと言う。
「ピヴォワンヌ姫……。好きに言ってもらって構わないが、僕が彼女たちに対して愛想を振りまかないのは、単にその必要がないからだ。僕は僕を利用しようとする人間がそもそも大嫌いだ。王子だからという理由で近づいてきて、隙あらば僕から何かを奪っていこうとする……、そんな人間は男であろうが女であろうがお断りだ」
アスターに近寄ってくる官僚や女官というのは、まるで蛭のような輩ばかりだ。
シュザンヌの息子だから、王子だから。
そんな理由だけで、彼らは狡猾に近寄ってくる。
女どもは特に小賢しい。アスターに即位などできるはずもないというのに、わずかに残ったおかしな可能性を信じて懇意になろうと躍起になる。あるいはシュザンヌ妃とお近づきになりたいなどと言って、べたべたとすり寄ってくる。
(ばかばかしい。忌み子である僕に媚びを売って、一体何になるんだ)
己の分というものをよくわきまえているアスターは、決して彼女たちに甘い顔をしなかった。
叛意を抱くつもりは毛頭ない。自分は今のままでいい。殺されずに生かされているだけでもじゅうぶんましだ。
そう思っているからこそそっけなく接するのだ。
父王にも母妃にも大して強い感情は抱いていない。彼らのことはただ淡々と傍観するだけだ。
リシャール、シュザンヌ、アスター。
三人は確かに親子であるはずなのに、アスターにはどうしてもその輪の中に加わろうという気が起こらなかった。
三人の関係は親子としてはこの上なく冷めたものだ。
シュザンヌは端からアスターを息子だとは思っていないし、「自分の顔に泥を塗った不肖の息子」として忌み嫌う。
リシャールも同じだ。彼はそもそも正妃であるシュザンヌをよく思っておらず、昔からアスターに対しての関心が薄い。
リシャールにしてみれば、二番目に輿入れしてきたエリザベスの方がよほど大切なのだ。
(それには母上が非道徳的なふるまいをして困らせたせいもあるんだろう。父上も母上も、すれ違ってばかりだ。二人が思いを同じくすることはこれまでただの一度もなかった)
リシャールは己の状況や不運を嘆いてばかり、シュザンヌもまた為政者を支える妻としての自覚に欠けている。
国王夫妻などと呼ばれてはいても、思いの方向は二人とも大きく異なっている。
アスターはそんな彼らにわざわざ近づこうなどとはどうしても思えないのだった。同時に、自分の本心を理解してもらえそうだなどという期待もしていなかった。
異父妹として愛おしむべきオルタンシアやミュゲには皮肉を言われて疎まれた。彼女たちにしてみれば「あなたはいいわね、れっきとしたお父様の子で」ということらしい。
だが、それはそもそもアスター本人が関与していることではない。母妃であるシュザンヌの悪行によるものだ。
本来であれば打ち解けていたはずの姫たちには嫌われ、一方的に差別された。この出来事はアスターの心に傷を残した。
……この二人だってきっとそうなのだ。こんな王子、誰だって嫌がるに決まっている。王子など名ばかり、近づきになってもなんのメリットもないごくつぶしなのだから。
アスターは苦い思いで二人を見やる。
……突き放さなければいけない。自分は彼女たちと親しくなってはいけない人間だ。
「僕は貴女たちについてどうも思っていない。王位継承争いなどという大任を背負わされて大変だろうとは思うが、それだけだ。僕個人には何ら関りがない」
きっぱりと言い切り、二人に背を向けて尖塔へ入る。
……と、そこで思いがけず力強い手のひらがジレの生地を掴んだ。
「……アスター様! ですが、わたくしはあなたと仲良くなりたいです」
アスターはそこで無意識に左眼に目をやった。
「は……、仲良くなってどうする。僕の母は貴女の母妃と敵対していたような女性だぞ。息子の僕だって貴女を傷つけるかもしれないだろう? それに、忌み子の王子と仲良くなって貴女に何かメリットがあるのか」
「いえ……。そのようなことを考えてここに来たわけではありません。ただ……、同じお父様の血を引く者同士、親しくなれないかしらと思って」
「……なんだと?」
怪訝そうな顔をするアスターに、バイオレッタは意を決したように口を開く。
「クララからアスター様のお話を何度かお聞きしました。とても誠実でお優しいお人柄だと。クララはあなたのことを誇りに思っているようでしたわ」
「……! ……僕らのことは放っておいてくれ。貴女たちにまで僕らのことを詮索されるのはごめんだ」
アスター自身、クララとの間に芽生えたこの思いをとても大切にしている。二人がこれまで秘めてきた想いを勝手に暴かれ、手垢をつけられるのは嫌だった。リシャールやシュザンヌに告げ口されても面倒だ。
だが、バイオレッタはふるふるとかぶりを振る。
「わたくしは、クララにあんなに綺麗な涙を流させるあなたが一体どのような方なのか、気になって仕方なかったのです。彼女にあそこまで純粋な想いを寄せられている殿方というのが、どうしても気になって。そして、彼女から色々と打ち明けられて思ったのです。わたくしは、あなた方の力になれるかもしれないと」
まさか自分たちを脅す気だろうかと、アスターは眉宇をひそめる。
「……何を企んでいる? 僕たちのことを誰かに言いふらす気じゃないだろうな」
「違います! 何もしませんわ。アスター様やクララが困るようなことは、何一つ。ただ、この状況を知っている人物が一人でもいるということは、お二人にとってはいいことだと思います。わたくしこそ、仲良くなったってなんのいいこともない姫です。姫といってもなんの力もありません。……でも、お二人を見守ることくらいできます」
「……!」
……なんという衝撃的な発言なのだろうと、アスターは数歩後ずさる。
バイオレッタはたたみかけた。
「わたくしは、クララもアスター様も同じように大切に思っています。クララのことは友人として。そしてアスター様のことはお兄様として、どちらも等しくかけがえのない存在です。ですから、二人だけで思いつめるようなことはもうなさらないでください」
アスターは目を見張った。
じっとバイオレッタの顔を凝視し、次いで小さく呻く。
(完敗だ)
なんというお人好しだろうか。
なんのメリットもないのにアスターたちに助力したいと申し出るなんて。
だが、その心根は嫌いではなかった。
アスターはそこに、自分と同じ何かを感じ取った。
「……」
非力ながらなんとか他人の力になってやりたいと願ってしまうのは、アスターとて同じだ。どうやら日ごろ誰かに必要とされない分、そうした機会に飢えてしまっているらしい。
そして、そういった感情というのがアスターには手に取るようにわかるのだ。必要とされることで生の実感を得たい。ひっそりと存在している自分の存在を、わずかでも認めてもらいたい。そんな思いが。
バイオレッタの目はそうした切望の滲む目だった。……アスターと同じ。
「……わかった。いいだろう。貴女の気持ちは汲む」
「……! よかった……、嬉しいです、アスター様!」
バイオレッタはほっとしたようにおもてをほころばせた。
「だが、すぐに何かを期待するなよ。気の利いた話は僕にはできないし、年頃の娘というのはそもそも苦手だ。それでもいいなら、貴女たちとも時々こうして会ってもいい」
釘を刺し、アスターは金髪をくしゃりと手で乱す。
「ありがとうございます……! あの、……お兄様とお呼びしてもかまいませんか?」
「……お兄様だと?」
アスターはぎょっとして瞠目する。
やはりよくわからないことを言う娘だ。確かにアスターは腹違いの兄ではあるが、だからといってそこまで親しむ必要があるのだろうか……。
だが、結局アスターはその提案を受け入れた。
「……いいだろう。好きに呼べ」
「まあ、ありがとうございます!」
様子をうかがっていたピヴォワンヌが身を乗り出し、しれっと言う。
「じゃあ、あたしは普通にアスターって呼ぶから。よろしくね、アスター」
「……!?」
アスターはなぜかそこでぐっと詰まってしまう。
クララにもその従者たちにも呼び捨てにされたことなどない。身近な知り合いで彼をただ「アスター」と呼ぶ者は誰一人としていないのだ。
「何目ぇ白黒させてんのよ。変なの。……あ、あたしのことはピヴォワンヌでいいわよ。あんたの好きなように呼んでよね」
「あ、ああ……」
自由すぎる性格だと思ったが、あっけらかんとした物言いのせいか、不思議と嫌悪感を抱かない。
こちらもなんとも変わった少女だ……。宮廷では全く見かけないタイプの女性だ。
「……」
アスターはしばし瞳を閉じて考え込んでいたが。
「大したもてなしはできないが……早速少し話でもしていくか?」
「えっ……、よろしいのですか!?」
アスターは「かまわない」とだけ言い、尖塔の奥を視線で示す。
一階の廊下の奥には小ぢんまりとした談話室が設けられている。遥か昔、忌み子の子供が王や妃と面会する際に使われていたものだという。
まさかこんな風に異母妹たちとのひとときに利用することになるとは夢にも思わなかったが――。
「クララの友人なら、僕には貴女たちを邪険にする理由はない。クララと同じように接するのが礼儀というものだろう」
クララも時々この尖塔でくつろいでいくことがある。
互いに他に用事がなく、時間に余裕がある時に限られるが、そうした時には香草茶を出してもてなすことにしている。そのままチェスやゲームに興じることもあるくらいだ。
「……貴女たちが嫌でなければだが」
控えめに言うと、二人は顔を見合わせる。
やはり余計な提案をしてしまっただろうかと、アスターが少しばかり後悔し始めた時……。
「ええ! では色々お話させてください!」
「あたしも寄ってく。あんたのこと、もうちょっと教えてほしいしね」
「……!」
アスターは自身の表情が緩むのを止められなかった。
異母妹たちに興味を持ってもらえた。もっと話したいと言ってもらえた。……ただそれだけのことなのに。
(それだけのことが嬉しいだなんて……僕はどうしてしまったんだ)
だが、この二人にペースを乱されるのは悪くなかった。
むしろ、新しい扉がすぐ近くで開いたような気さえした。
彼は微苦笑して言う。
「……これも何かの縁なんだろう。よろしく頼む。バイオレッタ、ピヴォワンヌ」
アスターの言葉に、二人は笑顔でうなずいた。
「はいっ!」
「ええ!」
***
「……思いがけずいい方向に進みそうですね」
「ええ」
ユーグの言葉に、クララは微笑んだ。
尖塔の入口から少し離れたところで二人の様子を見守っていた彼女は、ほっと胸をなでおろす。
「なんとか打ち解けられたみたいでよかったですわ」
「私はアスター様ならば悪いようにはなさらないだろうと思っていましたが」
目くらましの術を解いた一行は、ひとまずアスターと姫二人が対面するのを見守ることにした。
あの三人はもともと血の繋がりもある。クララはアスターの恋人であるとはいえ、彼らの前では部外者なのだ。余計な口出しはしたくなかった。
だが、思ったより順調に仲良くなれたようで、クララたちは安堵していた。人間不信のアスターが二人を突っぱねるかもしれないという不安があったからだ。
それも杞憂に終わった今、クララはこの上なく心強い協力者を得たことに、どこか解放されたような気持ちでいた。
たったこれだけのことで、こんなにも晴れやかな気持ちになれるなんて思ってもみなかった。ただ彼への想いを理解してくれる存在を得たというだけで、クララは心の翳りをすべて取り払われたような気分になってしまったのである。
(不思議な方。アベルは魔術の才を感じると言ったけれど、わたくしにとってはあの方の性格そのものが魔術のよう)
バイオレッタの後押しは、クララの中の不安をいとも容易に退けてしまった。
これはクララにとっては思いがけないことだった。
彼女のまっすぐな笑顔は、強張ったクララの気持ちを上手に和らげてくれる。そんなに構えなくても大丈夫だと教えてくれる。
こんな風に自分自身を赦されるような心地になるのは生まれて初めてだった。
彼女とは同じ薔薇後宮で暮らす者同士、そして同年の姫として、これからも手を取り合って生きていけたらと願うばかりだ。
「わたくしもそろそろ中に入ることにするわ。アスター様やお二人とおしゃべりをしてこようと思うの」
そう言って、クララは籐の籠を揺する。
中にはいつも通りタルトやサブレなどが収められている。だが、今日だけは多めに用意してきた。バイオレッタやピヴォワンヌに出すためだ。
「うーん、このハーブ入りのサブレ、香草茶にすっごく合いそうですねえ。あ、でも、僕はお酒の方がいいけど」
からりと笑ってのたまったアベルに、クララはやれやれと肩をすくめる。
「アベル、あなたのお酒好きは相変わらずね……」
「だって、夜会で出るお酒ってどれもおいしいんですもん~。宦官なんて特別楽しいこともない職業ですけど、宴席でお酒を飲める時だけは生きててよかったって思いますよー。ロゾリオ、シャルトリューズ、グラッパにカルヴァドス。みんな僕の恋人みたいなものです」
生きた女性ではなく酒を恋人と呼ぶ辺りがなんともアベルらしい。
「はあ……。別にいいけれど、ほどほどにするのよ。酔って御婦人方に迷惑をかけないで。それと、仕事中は飲まないでね」
クララが注意すると、アベルは大げさにのけぞってみせる。
「うわっ、わが君ひどーい! 僕がそんな危険人物に見えるんですかー!?」
「見えるわ」
「私もです」
断言する二人に、アベルは「うえっ」と嫌そうな顔をする。そして銀の髪をかきやってため息をついた。
「やっぱり僕の魅力は二人にはわからないんですね。こんなにかっこよくてイイ男なのに……」
またアベルの自己陶酔が始まった……と、クララは額に手を当てる。
「ユーグ、どうしたらいいの。また悦に入ってしまったわ」
「とりあえず無視しましょう」
さくっと言い、ユーグは尖塔の方をうかがい見る。
すると……。
「あっ……、バイオレッタ様……!」
早く早くとばかりに尖塔の入口から手を振ってみせるバイオレッタの姿に、クララはうなずいて軽やかに駆けだした。
……何かが確実に、変わろうとしていた。