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薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

elegante クロードの一日(前編)

スフェーン大国と呼ばれるとある王国に、クロード・シャヴァンヌという闇の魔導士がいた。  彼は国王リシャールに仕える、眉目秀麗、博学多才な宮廷魔導士である。  今日はそんな彼の華やかな一日を覗いてみたいと思う。  訥言敏行を旨とする彼の、その...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

elegante クロードの一日(後編)

ようやく菫青(アイオラ)棟にたどり着いたクロードは、扉の前でこほんと咳払いをした。  クロード同様バイオレッタも薔薇が好きなようで、ここに立つとそのよい匂いがふわふわと鼻腔をくすぐってくる。  見れば、いつか贈った私邸の薔薇が盛りだった。ち...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

eclatant 午後の執務室(前編)

……とある日の午後。 「あなたには矜持というものがないのですか? あれだけ自分に任せて下さいと豪語しておきながら、今頃になって私に泣きついてくるなど……」  苛々していたクロードは部下を怒鳴りつけた。    ……ここは外廷であるプランタン宮...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

eclatant 午後の執務室(後編)

なんとか落ち着きを取り戻したバイオレッタが隣室に入ると、クロードがお茶の支度をしていた。  パステルピンクの愛らしいティーセットと色とりどりの芸術的なお菓子。陶製の美しいボンボニエール、磨き抜かれた銀器。テーブルを飾るのは深紅の薔薇だ。  ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十三章 白き毒華

「本日はいかがなさいましたか、ミュゲ姫様」  その日、ミュゲは彼女にしては珍しく、私室に彼を呼び出していた。  彼――クロードは、出された紅茶にも手をつけずにミュゲを見つめ返した。 「……御用がないのでしたら、私は下がらせて頂きます。姫君の...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十四章 巡る思惑

次の日の昼。  オトンヌ宮では王室の面々を集めた食事会が開かれていた。  ミュゲは平静を装いつつカトラリーを動かし、雉(きじ)のローストを口に運ぶ。  広いテーブルにはオルタンシアの姿だけがなく、いつまで経っても彼女が≪享楽の間≫に姿を見せ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十五章 恋の獄

「……どうかなさいまして、シャヴァンヌ様?」  クロードは貴婦人のデコルテを愛撫していた指先をぴたりと止めた。    ……深更のサロン。招待を受け、気乗りしないながらも顔を出したのだが、やはり来るべきではなかったと後悔した。  周囲には賭け...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十六章 小夜啼鳥の恋歌

……四阿の椅子の上、二人は並んで腰かけて夏の風に身を委ねていた。  時折水を求めて降りてくる小鳥たちを、バイオレッタは指先で呼び寄せる。 「ふふ、いらっしゃい」  残念ながら呼びかけに応じる鳥は一羽もいなかったが、ピアノの周囲や噴水の縁で思...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十七章 邪神のささやき

「……姫。貴女は女王選抜試験を降りるつもりはありませんか」  ふいに耳朶に落ちたクロードの言葉に、バイオレッタは瞠目した。 「……えっ?」 「私のところへ降嫁なさる気はありませんかとお訊きしているのです」 「え……」  一瞬、聞き間違いかと...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

間章Ⅴ 宗教騎士たちの到着

黒髪の少女は宿屋のホールから一歩外へ出て伸びをした。 「うーん。王都はさすがに小綺麗ねー!」    ……船旅を終え、港からスフェーンに入り、宿を取って数日。  宗教騎士であるスピネルとラズワルドの二人は、教皇ベンジャミンの言いつけ通り、王都...
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