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薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十八章 たとえそれが幻でも

……早朝の菫青(アイオラ)棟。  寝室の掛け鏡を覗き込んで、バイオレッタは一つため息をついた。 (消えちゃった……)  指で首筋をなぞる。そこには数日前まで確かにクロードの所有の印があった。    あの時、少し驚いたけれどとても嬉しかった。...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

andante 私邸でのひととき(前編)

バイオレッタは、三面鏡に映る自身の姿をまじまじと見つめた。 『次の休日、私の邸に招待させて頂いても?』  数日前、クロードにそう問いかけられたバイオレッタは迷わずうなずいていた。 『ええ。喜んで、クロード様。楽しみにしています』  クロード...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

andante 私邸でのひととき(後編)

箱馬車を降りたバイオレッタは、思わず声を上げた。 「わあ……!」    快晴の空の下、その邸はそびえ立っていた。  暗緑色と象牙色を基調とした外観はすっきりとしている。  上階のバルコニーを飾るのは黒いアイアンで、その装飾の細かさはもはや芸...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十九章 逢瀬

数日降り続いた初夏の雨が止んだある朝。  私室の前で侍女の一人が受け取ったといって、サラが薄紫の封筒を手渡してきた。 (……え? どなたからなの?)  バイオレッタは机上の銀のペーパーナイフを探り当てると、封筒にそっと挿し込む。  封蝋を外...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

tardamente 暗闇に射す光

「お美しいミュゲ姫様……、恋しい御方。お慕いしています。どうか、私の気持ちに応えていただけませんか」  白蝶貝の扇の陰で、ミュゲは密やかに笑った。 「……恋しいって、あなたがわたくしを? ご冗談でしょう」  ミュゲはくるりと青年に背を向けた...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十章 月夜のキス

――その日、バイオレッタはクララに呼ばれて彼女の私室を訪れていた。   「いかがですか、バイオレッタ様」  彼女がうっとりと開いてみせた刺繍の教本に、バイオレッタの目は釘付けになった。なんでも、プリュンヌからもらったお古なのだそうだ。 「す...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十一章 舞踏への誘い

「どうしよう、心臓がばくばくする……」  そう言ってバイオレッタが身をすくめると、傍らのピヴォワンヌが苦笑した。 「大丈夫よ。相手だって男とはいえただの人間でしょ。そんなに硬くなることないわよ」      ……今日はエピドートとクラッセルか...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十二章 遠き幻、重なる夢

……ヴァイオリンの弓が軽やかにひと触れし、舞曲が始まる。  弾んだ音色がそっくりそのままこの胸の高鳴りを表しているかのようで、バイオレッタは半ば酔ったような心地で踊り始めた。    クロードにいざなわれ、蝶のようにくるくると広間を舞う。  ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

accarezzevole 風邪の看病(前編)

「ごほっごほっ……!!」  バイオレッタは寝台の上で咳き込んだ。  筆頭侍女のサラが、水銀体温計を見ながらつぶやく。 「……やっぱり、だいぶお熱があるようですわね」 「どうしましょう……、試験の最中にこんな……」  言いかけて、バイオレッタ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

accarezzevole 風邪の看病(後編)

「うぅん……」  バイオレッタはゆっくりと瞳を開けた。  なんだかものすごくよく眠った気がする、と、彼女は白銀のまつげをぱちぱちさせた。  まだ完全に起きる気がしないので、しばらく天蓋の宗教画を眺めてぼんやりする。  身じろぐと、だいぶ体が...
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