薔薇後宮奇譚 第一部 バイオレッタ編

薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第八章 トワレット

……装飾品やショール、扇などの箱を手にした侍女が壁際に控えている。  バイオレッタは今、深緑に黄金の縁取りがされた大きな三面鏡の前に立っていた。    一息ついてからこの化粧室に入ると、侍女たちはすでに六着のドレスを用意していた。高価な染料...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第九章 王と娘

「な……、何を言っているのよ!! 父さんが処刑ってどういうこと!?」    ピヴォワンヌは、思わずドレスの腰に手をやった。……そこにいつもの長剣の柄の感触はない。まるで最初からすべて仕組まれていたかのように。    菫青(アイオラ)棟の客間...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十章 すれ違い

リシャールは、傲然とこちらに歩み寄ってくる。長靴の踵で断ち切られた帳を踏みしめ、濃紫のマントを引きながら、緋色の絨毯の上を進んでくる。  男の血がこびりついた長靴(ちょうか)は赤黒い色に染め上げられ、年若い姿の少年王からえもいわれぬ妖艶さを...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

間章 アガスターシェの大火

……その夜。  バイオレッタはなかなか寝付けずにいた。  日中《星の間》で凄惨な場面を目の当たりにしたせいだろうか、やけに意識が冴え冴えとしている。燭台の炎をすべて消してあるにも関わらず、睡魔がなかなか訪れてくれない。  サラが用意しておい...
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第十一章 宴の夜に

バイオレッタは、朝食を取りながらため息をついた。 (昨日の一件があってから、なんだか寝不足……)  口元に手を当てて大きなあくびをすると、バイオレッタは涙の滲んだ目元を擦る。    深更の一件は瞬く間に情報がもたらされ、「アガスターシェの大...
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第十二章 紫陽花と鈴蘭

侍従たちにかしずかれながら、二人の美姫は享楽の間に入ってきた。  父王に向けて優雅な辞儀をする。  この二人が、第一王女のオルタンシア姫、そして第二王女のミュゲ姫だろう。城下で名前だけは聞いている。  バイオレッタはしばし二人に見惚れてしま...
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第十三章 クララ

「バイオレッタ様、ピヴォワンヌ様」  晩餐会からの帰り道。  後宮の回廊で呼び止められて振り返ると、そこには茶色の髪の美姫がいた。  隣のピヴォワンヌが小首を傾げる。 「あんたは……クララ姫?」 「ええ、アルマンディンの元第一王女、クララ・...
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第十四章 軟禁された姫君

女王候補たちが初めて顔を合わせた晩餐会から早くも数週間が経った。  バイオレッタはその日、ピヴォワンヌとともに後宮内の散策を楽しんでいた。手には厨房でこしらえてもらった軽食を携えている。   「迎えに来てくれてありがと。あたしの居住棟も結構...
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第十五章 みんなでお茶会を

従者二人とアンナが協力してお茶会の支度を始める。  すべすべした大理石のテーブルに真っ白なクロスを敷き、レースのドイリーをかけてティースタンドを据える。 「本日はキューカンバーサンドウィッチとプティフール各種をご用意いたしましたわ。プリュン...
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間章Ⅱ 夜の淵

無慈悲な少年王が、拘束されて身動きの取れなくなった養父の頭髪をぐいと掴む。  彼は手にした得物を、抵抗できない養父の肌にあてがった。    ――見せしめに、こやつの首を斬り落としてやろう。 (……いや、やめて)  ――そなたが強情ゆえ、僕と...
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