薔薇後宮奇譚 第一部 バイオレッタ編

薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十六章 不可思議な痛み

その日、リシャールは四人の姫を本城リュミエール宮に招いていた。   「皆の者、女王選抜試験のことは聞き及んでおるな」 「はい、お父様」  頭を垂れる王女たちに、リシャールは満足げな笑みを刻む。 「……うむ。第一王女オルタンシア、第二王女ミュ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十七章 舞踏会の夜

……エテ宮、《舞踏の間》。  今宵は王女たちの復権を祝して、大規模な舞踏会が催されている。  ぜひ懇意になりたいという廷臣たちによって姉のバイオレッタと引き離されてしまったピヴォワンヌは、浮かれ騒いでいる宮廷人たちを尻目に、早々に壁の花を決...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十八章 月下の恋人たち

「さて、姫……。宴の席にただ戻るのでは、少々退屈ではありませんか?」  ……エテ宮にしつらえられたバルコニー。  リシャールが去ると、クロードは適度な距離を保ったままで静かに訊いた。馴れ馴れしくべたべたと触れてこないあたり、さすが洗練された...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

間章Ⅲ La Pensée secrète

≪舞踏の間≫を抜け出したクララは、金の髪の王子の腕に抱かれていた。  とてもひっそりとした逢瀬だ。……否、それはもはや「秘め事」と呼んでもおかしくはないほど、背徳的で禁じられた密会であった。  宮廷の婦人たちが好むような、ドラマティックな抱...
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第十九章 試験の始まり

「……ふう」  薔薇後宮から本城へと続く遊歩道(プロムナード)をしずしずと行きながら、バイオレッタは肩を揉み解した。    連日の夜会とレッスンで身体を酷使しているせいか、全身がずっしりと重たい。  しかも幾重にも層を重ねたドレスと装飾品の...
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第二十章 花の咲かない村

バイオレッタは、使者やギードとともに領地レベイユにやってきていた。 「う……、けほっ……、す、砂埃がすごいんですのね」  華やかな装いでは賊に狙われる危険があるため、簡素なブラウスと脚衣、砂埃よけの頭巾をかぶっている。ひときわ目立つ白銀の髪...
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第二十一章 王女であるということ

その晩、使者の邸でやすんでいたバイオレッタは勢いよく瞳を開けた。  邸の外、男たちの咆哮と怒号が飛び交っている。 (――賊!?)  風に乗って剣戟が鳴り響き、ただならぬ事態であることを知らせる。遠くから聞こえてくる男たちの唸り声と、女子供の...
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間章Ⅳ 盤上の駒の遊戯

王太后の私室に足を踏み入れたクロードは、いつものように深紅のカウチに寝そべる老婦人の姿を認めて声をかけた。 「……お呼びでしょうか、王太后様」  王太后ヴィルヘルミーネは、クロードを見つめて艶然と笑った。 「いらっしゃい、シャヴァンヌ。来て...
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第二十二章 動き始めた心

……スフェーン大国に初夏が訪れた。  香りのよいライラックの花が咲き乱れる庭園を、バイオレッタたちは森の中の四阿(パビリオン)からぼんやりと眺めていた。  丸く切り取られた天井には抜けるような青空が広がり、城の北側にある丘陵地帯からはのどか...
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第二十三章 小さな幸せ

「どうぞ、お入りください」  クロードが壮麗な造りのドアを開ける。  ここは後宮付属図書室……、『後宮書庫』だ。  もちろんここに来るのは初めてではなかったが、クロードが一緒だと思うとなんだか落ち着かなかった。  端麗な横顔を見上げるだけで...
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