薔薇後宮奇譚 第一部 バイオレッタ編

薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十章 月夜のキス

――その日、バイオレッタはクララに呼ばれて彼女の私室を訪れていた。   「いかがですか、バイオレッタ様」  彼女がうっとりと開いてみせた刺繍の教本に、バイオレッタの目は釘付けになった。なんでも、プリュンヌからもらったお古なのだそうだ。 「す...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十一章 舞踏への誘い

「どうしよう、心臓がばくばくする……」  そう言ってバイオレッタが身をすくめると、傍らのピヴォワンヌが苦笑した。 「大丈夫よ。相手だって男とはいえただの人間でしょ。そんなに硬くなることないわよ」      ……今日はエピドートとクラッセルか...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第三十二章 遠き幻、重なる夢

……ヴァイオリンの弓が軽やかにひと触れし、舞曲が始まる。  弾んだ音色がそっくりそのままこの胸の高鳴りを表しているかのようで、バイオレッタは半ば酔ったような心地で踊り始めた。    クロードにいざなわれ、蝶のようにくるくると広間を舞う。  ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

accarezzevole 風邪の看病(前編)

「ごほっごほっ……!!」  バイオレッタは寝台の上で咳き込んだ。  筆頭侍女のサラが、水銀体温計を見ながらつぶやく。 「……やっぱり、だいぶお熱があるようですわね」 「どうしましょう……、試験の最中にこんな……」  言いかけて、バイオレッタ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

accarezzevole 風邪の看病(後編)

「うぅん……」  バイオレッタはゆっくりと瞳を開けた。  なんだかものすごくよく眠った気がする、と、彼女は白銀のまつげをぱちぱちさせた。  まだ完全に起きる気がしないので、しばらく天蓋の宗教画を眺めてぼんやりする。  身じろぐと、だいぶ体が...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

elegante クロードの一日(前編)

スフェーン大国と呼ばれるとある王国に、クロード・シャヴァンヌという闇の魔導士がいた。  彼は国王リシャールに仕える、眉目秀麗、博学多才な宮廷魔導士である。  今日はそんな彼の華やかな一日を覗いてみたいと思う。  訥言敏行を旨とする彼の、その...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

elegante クロードの一日(後編)

ようやく菫青(アイオラ)棟にたどり着いたクロードは、扉の前でこほんと咳払いをした。  クロード同様バイオレッタも薔薇が好きなようで、ここに立つとそのよい匂いがふわふわと鼻腔をくすぐってくる。  見れば、いつか贈った私邸の薔薇が盛りだった。ち...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

eclatant 午後の執務室(前編)

……とある日の午後。 「あなたには矜持というものがないのですか? あれだけ自分に任せて下さいと豪語しておきながら、今頃になって私に泣きついてくるなど……」  苛々していたクロードは部下を怒鳴りつけた。    ……ここは外廷であるプランタン宮...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

eclatant 午後の執務室(後編)

なんとか落ち着きを取り戻したバイオレッタが隣室に入ると、クロードがお茶の支度をしていた。  パステルピンクの愛らしいティーセットと色とりどりの芸術的なお菓子。陶製の美しいボンボニエール、磨き抜かれた銀器。テーブルを飾るのは深紅の薔薇だ。  ...
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第三十三章 白き毒華

「本日はいかがなさいましたか、ミュゲ姫様」  その日、ミュゲは彼女にしては珍しく、私室に彼を呼び出していた。  彼――クロードは、出された紅茶にも手をつけずにミュゲを見つめ返した。 「……御用がないのでしたら、私は下がらせて頂きます。姫君の...
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