薔薇後宮奇譚 第一部 バイオレッタ編

薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十四章 揺蕩う想い

……その日の夕方。  後宮書庫の入口で、バイオレッタたちはクロードと別れようとしていた。   「ありがとうございました、クロード様」 「いいえ。姫は飲み込みが速くていらっしゃる。お教えするのが全く苦になりません。むしろとても楽しかったですよ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十五章 繋がる絆

「……まあ。驚いたわ」  バイオレッタはハンカチーフを持つ手をそっと下ろした。 「アスター殿下のお話はうかがっていたけれど、まさかそんな事情があったなんて」 「申し訳ございません……!」 「えっ……、嫌だわ、どうして謝るの?」  クララはふ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十六章 「理解者」

叩扉(こうひ)の音に、部屋で書きものをしていたアスターは顔を上げた。  何度かドアノッカーを叩かれる。どうやら階下――尖塔の出入口の方から聞こえてくるようだ。  世話係の侍従が出払っているらしく、その音はしばらく続いた。  この尖塔は天井が...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

後日譚 ~アスターとプリュンヌ~

「えへへ……、カードゲームって面白いのですねえ!」  プリュンヌが笑って賽を振る。勢いあまってテーブルを転げ落ちたそれを、クララが拾い上げた。 「プリュンヌ様も意外とお強いようですわね」 「うう、でも、アスターお兄様には勝てません~」   ...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十七章 Love Illusion

――エテ宮、≪舞踏の間≫。  その端にたたずんだクロードは眉根を寄せた。  ……視線の先には、貴族の青年たちと語らっているバイオレッタの姿。華奢な手を口元に添えて、穏やかに微笑んでいる。 (姫……)  一体、何がそんなに楽しいというのだろう...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十八章 たとえそれが幻でも

……早朝の菫青(アイオラ)棟。  寝室の掛け鏡を覗き込んで、バイオレッタは一つため息をついた。 (消えちゃった……)  指で首筋をなぞる。そこには数日前まで確かにクロードの所有の印があった。    あの時、少し驚いたけれどとても嬉しかった。...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

andante 私邸でのひととき(前編)

バイオレッタは、三面鏡に映る自身の姿をまじまじと見つめた。 『次の休日、私の邸に招待させて頂いても?』  数日前、クロードにそう問いかけられたバイオレッタは迷わずうなずいていた。 『ええ。喜んで、クロード様。楽しみにしています』  クロード...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

andante 私邸でのひととき(後編)

箱馬車を降りたバイオレッタは、思わず声を上げた。 「わあ……!」    快晴の空の下、その邸はそびえ立っていた。  暗緑色と象牙色を基調とした外観はすっきりとしている。  上階のバルコニーを飾るのは黒いアイアンで、その装飾の細かさはもはや芸...
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第二十九章 逢瀬

数日降り続いた初夏の雨が止んだある朝。  私室の前で侍女の一人が受け取ったといって、サラが薄紫の封筒を手渡してきた。 (……え? どなたからなの?)  バイオレッタは机上の銀のペーパーナイフを探り当てると、封筒にそっと挿し込む。  封蝋を外...
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tardamente 暗闇に射す光

「お美しいミュゲ姫様……、恋しい御方。お慕いしています。どうか、私の気持ちに応えていただけませんか」  白蝶貝の扇の陰で、ミュゲは密やかに笑った。 「……恋しいって、あなたがわたくしを? ご冗談でしょう」  ミュゲはくるりと青年に背を向けた...
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