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薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十二章 紫陽花と鈴蘭

侍従たちにかしずかれながら、二人の美姫は享楽の間に入ってきた。  父王に向けて優雅な辞儀をする。  この二人が、第一王女のオルタンシア姫、そして第二王女のミュゲ姫だろう。城下で名前だけは聞いている。  バイオレッタはしばし二人に見惚れてしま...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十三章 クララ

「バイオレッタ様、ピヴォワンヌ様」  晩餐会からの帰り道。  後宮の回廊で呼び止められて振り返ると、そこには茶色の髪の美姫がいた。  隣のピヴォワンヌが小首を傾げる。 「あんたは……クララ姫?」 「ええ、アルマンディンの元第一王女、クララ・...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十四章 軟禁された姫君

女王候補たちが初めて顔を合わせた晩餐会から早くも数週間が経った。  バイオレッタはその日、ピヴォワンヌとともに後宮内の散策を楽しんでいた。手には厨房でこしらえてもらった軽食を携えている。   「迎えに来てくれてありがと。あたしの居住棟も結構...
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第十五章 みんなでお茶会を

従者二人とアンナが協力してお茶会の支度を始める。  すべすべした大理石のテーブルに真っ白なクロスを敷き、レースのドイリーをかけてティースタンドを据える。 「本日はキューカンバーサンドウィッチとプティフール各種をご用意いたしましたわ。プリュン...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

間章Ⅱ 夜の淵

無慈悲な少年王が、拘束されて身動きの取れなくなった養父の頭髪をぐいと掴む。  彼は手にした得物を、抵抗できない養父の肌にあてがった。    ――見せしめに、こやつの首を斬り落としてやろう。 (……いや、やめて)  ――そなたが強情ゆえ、僕と...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十六章 不可思議な痛み

その日、リシャールは四人の姫を本城リュミエール宮に招いていた。   「皆の者、女王選抜試験のことは聞き及んでおるな」 「はい、お父様」  頭を垂れる王女たちに、リシャールは満足げな笑みを刻む。 「……うむ。第一王女オルタンシア、第二王女ミュ...
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第十七章 舞踏会の夜

……エテ宮、《舞踏の間》。  今宵は王女たちの復権を祝して、大規模な舞踏会が催されている。  ぜひ懇意になりたいという廷臣たちによって姉のバイオレッタと引き離されてしまったピヴォワンヌは、浮かれ騒いでいる宮廷人たちを尻目に、早々に壁の花を決...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十八章 月下の恋人たち

「さて、姫……。宴の席にただ戻るのでは、少々退屈ではありませんか?」  ……エテ宮にしつらえられたバルコニー。  リシャールが去ると、クロードは適度な距離を保ったままで静かに訊いた。馴れ馴れしくべたべたと触れてこないあたり、さすが洗練された...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

間章Ⅲ La Pensée secrète

≪舞踏の間≫を抜け出したクララは、金の髪の王子の腕に抱かれていた。  とてもひっそりとした逢瀬だ。……否、それはもはや「秘め事」と呼んでもおかしくはないほど、背徳的で禁じられた密会であった。  宮廷の婦人たちが好むような、ドラマティックな抱...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第十九章 試験の始まり

「……ふう」  薔薇後宮から本城へと続く遊歩道(プロムナード)をしずしずと行きながら、バイオレッタは肩を揉み解した。    連日の夜会とレッスンで身体を酷使しているせいか、全身がずっしりと重たい。  しかも幾重にも層を重ねたドレスと装飾品の...
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