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薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十章 花の咲かない村

バイオレッタは、使者やギードとともに領地レベイユにやってきていた。 「う……、けほっ……、す、砂埃がすごいんですのね」  華やかな装いでは賊に狙われる危険があるため、簡素なブラウスと脚衣、砂埃よけの頭巾をかぶっている。ひときわ目立つ白銀の髪...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十一章 王女であるということ

その晩、使者の邸でやすんでいたバイオレッタは勢いよく瞳を開けた。  邸の外、男たちの咆哮と怒号が飛び交っている。 (――賊!?)  風に乗って剣戟が鳴り響き、ただならぬ事態であることを知らせる。遠くから聞こえてくる男たちの唸り声と、女子供の...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

間章Ⅳ 盤上の駒の遊戯

王太后の私室に足を踏み入れたクロードは、いつものように深紅のカウチに寝そべる老婦人の姿を認めて声をかけた。 「……お呼びでしょうか、王太后様」  王太后ヴィルヘルミーネは、クロードを見つめて艶然と笑った。 「いらっしゃい、シャヴァンヌ。来て...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十二章 動き始めた心

……スフェーン大国に初夏が訪れた。  香りのよいライラックの花が咲き乱れる庭園を、バイオレッタたちは森の中の四阿(パビリオン)からぼんやりと眺めていた。  丸く切り取られた天井には抜けるような青空が広がり、城の北側にある丘陵地帯からはのどか...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十三章 小さな幸せ

「どうぞ、お入りください」  クロードが壮麗な造りのドアを開ける。  ここは後宮付属図書室……、『後宮書庫』だ。  もちろんここに来るのは初めてではなかったが、クロードが一緒だと思うとなんだか落ち着かなかった。  端麗な横顔を見上げるだけで...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第一部 バイオレッタ編

第二十四章 揺蕩う想い

……その日の夕方。  後宮書庫の入口で、バイオレッタたちはクロードと別れようとしていた。   「ありがとうございました、クロード様」 「いいえ。姫は飲み込みが速くていらっしゃる。お教えするのが全く苦になりません。むしろとても楽しかったですよ...
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第二十五章 繋がる絆

「……まあ。驚いたわ」  バイオレッタはハンカチーフを持つ手をそっと下ろした。 「アスター殿下のお話はうかがっていたけれど、まさかそんな事情があったなんて」 「申し訳ございません……!」 「えっ……、嫌だわ、どうして謝るの?」  クララはふ...
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第二十六章 「理解者」

叩扉(こうひ)の音に、部屋で書きものをしていたアスターは顔を上げた。  何度かドアノッカーを叩かれる。どうやら階下――尖塔の出入口の方から聞こえてくるようだ。  世話係の侍従が出払っているらしく、その音はしばらく続いた。  この尖塔は天井が...
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後日譚 ~アスターとプリュンヌ~

「えへへ……、カードゲームって面白いのですねえ!」  プリュンヌが笑って賽を振る。勢いあまってテーブルを転げ落ちたそれを、クララが拾い上げた。 「プリュンヌ様も意外とお強いようですわね」 「うう、でも、アスターお兄様には勝てません~」   ...
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第二十七章 Love Illusion

――エテ宮、≪舞踏の間≫。  その端にたたずんだクロードは眉根を寄せた。  ……視線の先には、貴族の青年たちと語らっているバイオレッタの姿。華奢な手を口元に添えて、穏やかに微笑んでいる。 (姫……)  一体、何がそんなに楽しいというのだろう...
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