薔薇後宮奇譚 第二部 ピヴォワンヌ編

薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第二部 ピヴォワンヌ編

morendo 迫る終焉  

クロードは、リシャールから預かった書類を官僚の部屋へ運ぶべく国王執務室を出た。  廊下をまっすぐに進み、東の翼棟にある大臣の部屋を目指す。  クロードは眼鏡の奥の瞳を静かに閉じ、苛立たしげに眉間を指で押さえた。  いかにも成金といった風情の...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第二部 ピヴォワンヌ編

間章Ⅱ 蠢く影

スピネルはリュミエール宮の貴賓室で大きな伸びをした。 「うーん、今日も絶好の仕事日和だわ!」  一人行儀よくテーブルについたラズワルドが、「朝から元気だね」とつぶやいてあくびを噛み殺す。  彼はスピネルに比べてやや遅めに起床し、今は身支度を...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第二部 ピヴォワンヌ編

第十七章 ぎやまんの檻

――話はピヴォワンヌが王宮を出立する数日前にさかのぼる。    バイオレッタはその日、クロードに連れられて彼の邸宅にある温室へと足を踏み入れていた。  彼の選んだ真っ白なシルクのシュミーズドレスを着せられ、人形のそれのように繊細なリボン使い...
薔薇後宮奇譚 ~菫の姫は千年の恋歌に啼く~ 第二部 ピヴォワンヌ編

第十八章 遊戯の果てに

クロードはスプリングの効いたベッドの上にバイオレッタを放り投げた。  寝台がぎしりと撓み、バイオレッタのほっそりとした肢体がシーツの海の上で勢いよく弾む。  その上にクロードが覆いかぶさってきた。  ……明るかった視界にたちまち影が差す。 ...
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第十九章 蝶の姫

『バイオレッタ』  混濁した意識の中、自分を呼ぶ声が聞こえる。 『バイオレッタ。バイオレッタ、起きてちょうだい』  そうして何度か名前を呼ばれる。  バイオレッタは未だ覚醒しきらない霞がかった頭でぼんやりとその響きを聞いていた。 (ああ、バ...
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第二十章 魔導士との対峙

クロードはその朝、若干のけだるさとともに目を覚ました。  城へ向かう支度を整えながら息をつく。  あの後、アイリスによって逃されたバイオレッタを見つけることはとうとうできなかった。  背に流したままの黒髪を手で梳き下ろし、クロードは苛々と両...
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第二十一章 大空をゆく鳥のように

「――はあああああッ!!」  ピヴォワンヌは夢馬(ナイトメア)めがけて愛刀を打ち下ろした。  刹那、濃密な闇で生み出された黒馬のシルエットに亀裂が走り、音もなく消滅する。  息をついたのも束の間、足元に集った闇がまたしても不気味に蠢き出して...
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第二十二章 王城への帰還

……ここは、どこだろう。  バイオレッタは静寂の下りた世界でぼんやりと考えた。  辺りには薄闇が垂れこめているものの、上空を見上げればほんのりと明るい光が射している。  もしかして、またあの闇の迷路の中へ放り出されてしまったのだろうか。  ...
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第二十三章 二輪の蘭

バイオレッタはぱちぱちと瞬きをした。  次いで、部屋の入口に仁王立ちしている少女を見つめる。  人の部屋にこうして勝手に上がり込んでくるなんて一体どういうつもりなのだろうか。  いや、それよりもこの少女は一体何者なのだろう……。  先日の一...
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第二十四章 移り変わるもの

――その夜、主人であるリシャールのもとへ引き立てられたクロードは、≪星の間≫で彼と向き合っていた。  左右を固めていた騎士たちが人払いを受けて退室し、今や広間にはクロードとリシャールの二人しか残っていない。  天窓の向こうはすでに濃い宵闇に...
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